感情や記憶もコントロールできるって本当?!香りが人体や脳に与える影響について
私たちは毎日無意識のうちに様々な香りを嗅いでいます。香りを嗅ぐと脳はどんな働きをするのでしょうか。そして人は香りからどんな影響を受けているのでしょうか。
2019年01月11日更新
記事の目次
[1]香りがもたらす感情や記憶への影響について
花の香りを嗅ぐと気持ちがリフレッシュする、パン屋やコーヒーショップの香りにつられてつい立ち寄ってしまう、街角で好きだった人の香水の香りがふわっと香ってきて、思い出がフラッシュバックする…というようなことはありませんか?私たちは、香りによって感情や欲求が左右されたり、過去の記憶を思い出したりします。これは、香りが脳と密接に関係しているということの表れなのです。
香りで感情をコントロールできる?
人には五感「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚」が備わっていますが、嗅覚は五感の中で唯一、私たちの本能・情動に直接働きかける繊細な感覚なのです。それは、香りの成分がダイレクトに脳へ伝わり、本能行動や喜怒哀楽という感情、記憶に関する部分に作用するからです。
また、伝わった香りの情報から、脳は過去の経験と結びつけ、良い香りなのか、嫌な香りなのかを判断します。脳が「嫌な香り」と判断すれば、不快な気持ちになりますし、「良い香り」と判断すれば、心身をリラックスさせます。好きな香りが人それぞれ違うというのも、脳が判断する良い香り、嫌な香りの基準がそれぞれの過去の経験に基づいているからと言えます。
このことから、積極的に好きな香りを嗅ぐことで、脳がリラックスした良い状態を保つことができるのです。香りを使ってうまく脳へ働きかけることで、感情を理想の状態にコントロールすることが期待できます。
[2]香りが人体に与える影響
香りの情報は、自律神経活動、免疫活動、ホルモン分泌をコントロールしている視床下部へ伝わります。好きな香りを嗅ぐことで脳がリラックスし、エネルギー回復、免疫力アップなど身体に良い影響が出ます。では「香り」は人体にどのような影響を与えるのか具体的にいくつか見てみましょう。
コーヒーの香りが与える影響
コーヒーの香りほど年代性別を超えて親しまれているものはないかもしれません。出勤前と就寝前に気分に合った香りを選び、コーヒーを淹れることが日課になっている人もいます。ではコーヒーの香りにはどんな効果があるのでしょうか。杏林大学医学部の古賀教授による実験では、数種類のコーヒー豆の香りを嗅いだときの被験者(20代女性10人)の脳波(α波とP300)を分析しています。結果、グァテマラやブルーマウンテンは、α波の量が多くなり、リラックス効果が実証されました。また、ブラジルサントス、マンデリン、ハワイコナは、脳の活性化、情報処理のスピードアップ効果がみられました。このようにコーヒーの種類によっても安らぎの気持ちを与えてくれるものや、集中力を高めてくれるものなど様々な効果があることがわかっています。
アロマテラピーの香りが与える影響
アロマテラピーとは精油(エッセンシャルオイル)を利用する芳香療法です。精油とは、植物の花、葉、茎、樹皮、果皮、根、実、種子などから抽出した天然の芳香物質です。人工的な香料には無い、100%天然ならではの個性的な香りと薬理作用を私達にもたらしてくれます。
精油の香りは3つの方法で、心身に効果を生み出すことができます。嗅神経を通して脳へ伝わる経路と、呼吸することで、鼻から気管、気管支を通り肺胞を取り巻く毛細血管から血液循環により全身を巡る経路、毛穴から取り込む経皮吸収とがあります。身体に吸収されるのは微量でも、精油は成分が凝縮されているため、その種類やブレンドの配分によって様々な効果が期待できるのです。
アロマの香りで肌に良い影響が?
MENARDによる実験で、ローズ、オレンジフラワー、バイオレットの精油を含む香りを女性に嗅いでもらい、5分後の唾液中オキシトシン濃度を測定しました。結果、オキシトシン濃度の上昇がみられました。脳から分泌されたオキシトシンは血液循環により肌へ巡り、肌の肝細胞に働きかけて活性化させることで、美肌へと導いてくれます。
※オキシトシンとは…「幸せホルモン」「愛情ホルモン」とも呼ばれ、ストレスを軽減し幸せな気分にしてくれるホルモンです。恋人、家族、ワンちゃんとハグ、気の合う友達とのお喋りでも分泌されます。幸せを感じる行為は美肌につながるんですね。
アロマの香りで勉強に良い影響が?
レモンの精油で、コーヒー豆と同じく脳波(P300)を分析する実験を行った結果、レモンの精油には脳の働きを活性化し、集中力をアップさせる効果があることが分かりました。ある塾ではラベンダーの香りを焚いていましたが、適切な効果が出なかったため、レモンの香りに変えたところ、解答ミスが56.2%も減ったそうです。受験生は試してみる価値がありそうですね。
人気の柔軟剤の香り、人体に影響は?
大人気の香り付き柔軟剤は、商品数も消費者も大幅に増えています。その一方で、その香りに悩まされている人もいます。国民生活センターには、柔軟剤の香料による体調不良や呼吸器障害などの健康被害や生活被害の相談が寄せられています。日本石鹸洗剤工業会では、被害の軽減のために周囲に配慮して洗剤の使用量目安を守ることを推奨しています。調査では、使用量を守っている人は2割ほどと少なく、規定量の2倍量で使用している人もいるようです。嗅覚は特定の香りを嗅ぎ続けると慣れてしまい、その香りを感じなくなってしまいます。自分の感覚だけに頼らず、使用量の目安を意識しましょう。人気の柔軟剤のシリーズには無香料のものもありますので、香水やアロマのようにTPOに合わせて使い分けるのも良いですね。
[3]香水の香りは赤ちゃんに影響する?
赤ちゃんの嗅覚
国内外での研究・実験により、赤ちゃんには優れた嗅覚が備わっていることがわかっています。
- 生まれたての赤ちゃんが、母親のお乳の匂いを嗅ぎ分けた
- 生後2週間の赤ちゃんが、自分の母親のわきの汗の匂いを嗅ぎ分けた
以上のように、新生児期は大人以上に優れた嗅覚を持っています。目が見えづらいこの時期は自らの生命を守るために嗅覚が発揮されるようです。
母親もまた、生まれたての自分の赤ちゃんの匂いを嗅ぎ分けることができる、という実験結果があります。また、赤ちゃん特有の匂いはうなじから出ていて、母親が母乳をあげるために赤ちゃんを抱くと、ちょうど鼻の下で赤ちゃんの良い匂いが香り、催乳ホルモンが刺激され母乳の出がよくなると言われています。母子双方の匂いと嗅覚が命を育むために本能的に機能し合っていますね。
香水を上手く使うには~赤ちゃんへの影響を考えよう
妊娠中や赤ちゃんのいる家庭で、香水などのフレグランス製品やアロマオイルを使用することで赤ちゃんに悪影響があるか不安を感じる方もいるようです。母子の触れ合いが密な時期なので、香水などの使用を控えるのも1つの方法です。また、香りは心身の健康に作用するので、使用する場合には母子の匂いと嗅覚を傷つけず、身の回りにある家族や食事などの匂いを感じさてあげる、などの配慮をもって使用すると良いでしょう。合成香料やアロマオイルには妊娠中や赤ちゃんへの使用はNGなものがありますので注意して下さい。
妊娠中の匂いつわり
妊娠してから特定の匂いが苦手になったり吐き気がしたりする匂いつわりを多くの方が経験しています。合成香料、ご飯が炊ける匂い、生ごみ、歯磨き粉、スーパーの匂いなど、人によってつわりの症状が出る匂いは違うようです。原因として、女性ホルモンの急激な変化と、母体や胎児に悪影響があるものに拒否反応が出るという2つがあげられます。
[4]香りと上手に付き合う
最近は女性だけでなく、男性でも香りを上手に取り入れている人が多いですね。また、医療・教育・経済といった幅広い分野でも活用されています。好きな香りが決まっている人も、これから好きな香りに出会う人も、香りの力を借りて心身を上手くコントロールすることで健康的な毎日を送ることができるでしょう。