『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』の哲学冴える新作香水
『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』からこの春、オードパルファム「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」が登場しました!香水ファンをうならせる、その哲学的な香りの魅力をパリ本店からお届けします。
2021年06月04日更新
[1]「2021年の理想の香水」と噂される香り
“香りの巨匠”と呼ばれる『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』の最新作が、2021年3月に本国フランスで発売されました。
「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」という名の、『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』美学がこれでもか!というほど詰まったオードパルファムです。
その哲学的な香りは、フランス版「VOGUE(ヴォーグ)」で「2021年の理想の香水」と紹介されたほど。
まず何が哲学的かというと、その名前にあります。
「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」の“La dompteuse(ラ・ドンプトゥーズ)”は、“(サーカスなどの)動物の調教師”という意味です。
そして“encagee(オンカジェ)”とは“檻に入れられた”という意味を持ちます。
つまり、「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」の意味は“檻に入れられた調教師”となるのです。
本来なら檻に入れられた動物を扱うはずの調教師が、逆に檻に入れられてしまった…一体どういうことなんでしょう?
香水のタイトルでこれほど奇天烈なものは、なかなかありません。
それにしても、「フランスの知性・哲人」と評される『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』らしいアンチテーゼを含んだネーミングですよね。
『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』は「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」にどんな思いを込めたのでしょうか。
そしてなぜ、「2021年の理想の香水」と噂されているのでしょうか。
そんな「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」の謎を解くべく、パリの『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』本店に行って参りました。
[2]『Serge Lutens』の耽美主義
「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」の前に、『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』本店の魅力をちょっとだけ語らせてください。
私がパリでいちばん心を奪われている場所が、この本店です。
数ある香水ブティックのなかでも、『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』本店はずば抜けて美しいですね。
“感性×知性”を感じさせる空間、圧倒的な世界観、全てが完璧です。
Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)氏はその豊かな才能から“天才クリエイター”とも呼ばれていますが、私はクリエイターを通り越してもう“創造主”だと思っています。
個人的には、『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』の香りは道徳性を伝えたり、現代社会に訴えたりするものではなく、ただ単純に美しい存在、その美しさ自体に価値を置く芸術である“耽美主義”に近いかなと思います。
つまり、美のみを追い求め、他は何もいらない。流行りを追うわけでもなく、美しくいることが最高基準であるとして、ひたすらその世界に心を傾け陶酔する。
そのブランド哲学は昔からずっとブレていません。そしてそんな強い発信力があるからこそ、最高峰のパフュームメゾンとして長く君臨し続けているんですよね。
おそらく『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』は香水がアートである、ということを初めて世界に認識させたブランドなのではないでしょうか。
『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』の香りのインスピレーションの源は、Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)氏自身が強い影響を受けた国、フランス、モロッコ、日本の3つの国からです。
今回ご紹介する「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」は、ブランドを代表する“コレクション・ノワール”からの新作香水です。
“魔法の液体”とも呼べるその神秘的な香りをご紹介しましょう。
[3]逆説的な香り
ノート:フランジパニ、アーモンド、イランイラン、バニラ
結論から述べますと、「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」はそのハードなネーミングとは全く逆の、優しくうららかなフローラルノートです。
ただ優しさにもいろいろな種類があります。
香りを擬人化するのならば、これはもともと優しい人なのではなく、物言うアクティビストが角が取れて優しくなったというような、言わば“丸い”香りがするんです。
「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」の直訳、“檻に入れられた調教師”のシチュエーションを想像してみましょう。
私は試香する前は「官能的な香りなのかな?」と思っていましたがそれは大間違いでした。実はもっともっと深く、不思議めいた、神秘的な香りだったのです。
「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」の香りの肝はイランイランとアーモンドです。
トップノートでアーモンドのふくよかな甘さがほとばしりますが、すぐに飛びます。そして5分後くらいからはイランイランがメインに。
全体を通して香りの変化はあまりなく、徹頭徹尾最上級のイランイランが香り、安定しています。クライマックスで感じるバニラも非常に控えめです。
イランイランと言えば甘く官能的な香りがするお花として有名ですが、「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」に官能性はあまり感じられません。
確かに甘くて華やかなところはありますが、決してハッピーな香りではないんです。
そして私はこの「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」を“逆説的な香り”と捉えました。
そしてさらに、ここには現在社会のイメージが隠されているんじゃないかと思いました。
『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』は、まるで檻の中に入れられてしまった調教師のように、自由を制限された私たち、閉じ込められた考えを具体化したのではないかと思います。
思い当たる節はあります。
このコロナ禍、自由が不自由に、封じ込め、閉じ込められ、私たちの精神はまさに檻の中にいるようでした。
ただ、“未来”という一筋の光に希望を繋いで己を保っていられました。
いつか、抜け出せると。
Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)氏によれば、「人間の魂は閉じ込められていますが、窓ははるかに自由に開かれています。この光に自分を向けるのは人間次第です。」とのこと。
「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」の不思議なほど優しく柔らかな香りは、小窓から入る希望の光のようなんです。
檻から覗く外の光。
いつ出れるのかな?外の世界はどうなっているのかな?
叶わない願いだとしても、今はただひたすら優しく、穏やかに、祈っていよう。
そんな、絶望を味わった先の一抹の“解放感”と“慈しみ”が感じられる、懺悔の香りなんです。
いささか宗教的で、一周してカルマが溶けた時のような神聖な香りでもあります。
そして“欲”が全く似合わない香水とも言えます。
精神が押さえつけられた先にあるのは、憎しみか許しか?
その問いに『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』は許しであると、そう答えたのだと思います。
こんな世知辛い世の中ですから、自分にも他人にも自然にも優しくありたいですよね。
そんな気持ちを濃縮させたような香りが「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」なんです。
ただこのフレグランスが私たちを優しい気持ちにさせてくれるかというと、そうではありません。今、無意識に手に取ってしまう香り、嗅ぎたい香りです。
そういった意味では、「2021年の理想の香水」と噂されているのも頷けます。
この香りとともに一人教会などに行って祈りたくなるような、甘く儚く、神聖で美しい香りです。
[4]全ての人に
「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」は少し女性よりのオードパルファムではありますが、ユニセックスタイプとして発売されています。
ちょうど良い重さで、つけやすいところも魅力です。
20代後半から上は60代、70代の方がまとってもすごく素敵だと思います。
複雑でも単純でもなく、世界中どの人種にも受け入れられそうな香りで、隣の人に優しさをお裾分けしてあげられそうなフレグランスです。
そして「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」の利点は、ステイホームでも外出先でもシーンを選ばないところです。季節もさほど関係ありません。
万人受けタイプの香水というわけではないのですが、鼻腔は心地よく、世の中全ての人が「これは良い香り」と納得するはず。
官能目的だけじゃない、イランイラン香水を探している方にもおすすめです。
世界にはこんなにも深くてエモーショナルなフローラルノートが存在するんだよ、と声を大にして紹介したい香りです。
ファッション香水とは全く違う『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』ならではの哲学が詰まっているので、その香りの奥深さを楽しみたい人にはうってつけです。
[5]名作揃いの2021年
「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」はコロナ禍が収まりを見せない2021年3月に発売されました。
世界中が苦しみ不安な毎日を送っていましたが、こんなに抑圧された状況でも芸術は秘かに紡がれていました。
いやむしろこのような先の見えない状況だからこそ、クリエーションの世界では傑作と呼べる作品が生まれているのかもしれません。
今回の「La dompteuse encagee(ラ・ドンプトゥーズ・オンカジェ)」も間違いなく名作に名を連ねることになると思います。
残念ながら日本での発売情報は得られませんでしたが、『Serge Lutens(セルジュ・ルタンス)』に足を運ぶ時、今回のこの記事を思い出していただければ嬉しいです!