現代人の心情を香りで表現した「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」
ニッチフレグランスとして人気の高い『BYREDO(バイレード)』から新作「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」が登場!パンデミックに生きる現代人の心情を香りに昇華したという、とても気になる存在です。その複雑な香りをレビューしてみました。
2021年05月13日更新
記事の目次
[1]心を揺さぶられた「MIXED EMOTIONS」の広告ヴィジュアル
2021年3月4日、スウェーデン発のニッチフレグランスブランド『BYREDO(バイレード)』から新しい香り「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」が仲間入りとなりました。
「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」は、日本語で“複雑な気持ち”、“入り交じった感情”を意味します。
世界的なパンデミックに生きる私たちの、今感じている不安や安堵の感情を全てひっくるめて香りに昇華した、ジェンダーフリーの香水です。
私は以前から『BYREDO(バイレード)』の大ファンなのですが、この存在を知ったのはパリににある『BYREDO(バイレード)』本店の前を通りかかった時。
物憂げな表情をした男性の広告が心に残り、すぐに公式ホームページで公開されているキャンペーン・ショートムービーを観ることにしました。
現在「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」のプロモーションとして、17分の短編映画「Tall Are The Roots(トール・アー・ザ・ルーツ)」が公式ホームページで公開されているのですが、この映像は香りファンのみなさんなら必見です!
>>短編映画「Tall Are The Roots(トール・アー・ザ・ルーツ)」
ドキュメンタリータッチのショートムービーで、音楽、カラー、台詞の全てがずば抜けてカッコいいんです。私は一瞬で心を奪われてしまいました。
普通の香水の広告とは真逆のアンニュイな雰囲気、ダークなサウンドは「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」の香りのキャラクターを忠実に表現していると思います。
アーティスティックな『BYREDO(バイレード)』らしい作品ですし、パンデミックにおける“複雑な気持ち”、“入り交じった感情”を香りにするという発想にも感服しました。
それでは、タイムリーな香り「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」の魅力を述べたいと思います。
[2]強く、複雑で、『BYREDO(バイレード)』美学が詰まった香り
トップノート:ブラックカラント(カシス)、マテ
ミドルノート:セイロンブラックティー、ヴァイオレットリーフ
ラストノート:バーチ(白樺)、パピルス
まず、最初に思ったのは「なんという複雑さ!!」という驚きです。
多くのトップノートは爽やかで清潔、そして弾けるようなシトラスノートが香ってくるものですが、「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」には全くその要素がありません。
そして、わりと強めでパンチがあります。
ブラックカラント(カシス)の、ジューシーだけど甘くないハーバルな香り。
そこにアーシーなマテ(お茶)の香りがミックスされて、多国籍なイメージが強く残るトップノートです。
続くミドルノートでは、セイロンブラックティーの香りが先のマテと相性が良いのでしょうか、心地良いスモーキーさが続いていきます。
それでもまだ複雑な印象は続いていて、靄(もや)の中をぐるぐる歩いている感じもします。
ただ、そこに現れるヴァイオレットリーフの柔らかなフローラルトーンが絶妙で、放っておいたらすごく暗くなりそうな「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」の香りを、ここでぎりぎりニュートラルに保っているような気がしました。
「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」の始まりは、独特な香りがするので面喰ってしまうのですが、実はラストノートのこのバーチ(白樺)が肝だと思っています。
日本人にとってもなじみのある白樺のウッディ調の香り。ここでは、“ザ・ウッディ!”というよりは、清涼感のある木の香りがしました。まるで自然の中にいるような安心感も味わえます。
負や正の感情を表しているのがトップ~ミドルノートで、このラストノートではもしかしたら“無”を表しているのかもしれません。
その無垢な香りは“純粋さ”というより“無”を連想させるものでした。
好みが分かれるであろう、独特な香りの「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」。個人的には、『BYREDO(バイレード)』のなかで1、2を争う傑作香水だと思います。
ただただ多幸感をあおるようなフレグランスでは決してなく、力強さもなければ万人受けも狙っていない。
なんとなく滅入る気持ちと、人を惹きつける何かを同時に持ち合わせた、まるで太宰治のようなフレグランス。
退廃美や背徳感をも感じさせる、『BYREDO(バイレード)』美学がぎっしりと詰まった1本です。
[3]共感する全ての人に似合う香り
「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」の香りは、バランスが取れているようで、アンバランスです。
ただ、時としてそのアンバランスさが絶対的な魅力となって現れることってあると思うんです。
出典 instagram.com/p/CL4kCamAAXb/
『BYREDO(バイレード)』のオフィシャルインスタグラムに掲載された、興味深い言葉があります。
Balance is key
But unbalanced feels more like me.(バランスが鍵だ。だけどアンバランスはもっと自分らしい。)
私はここに、「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」の全てが要約されているような気がしました。
このフレグランスはありふれた香料と珍しい香料を組み合わせることで、個別の香りの差異を保ちながら全体の魅力を高めています。
パンデミックにおける“複雑な気持ち”、“入り交じった感情”を香りへ昇華した、という壮大なコンセプトを持った「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」。
湧き上がってくる負の感情、それを打ち消すためのポジティブな言葉、先の見えない不安、それでも未来は明るいと思える自分。
そんなアンバランスな感情をそのまま“客観的”に香りに落とし込んだ、素晴らしい香水なんです。
「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」は、どのシーンに似合うか?というより、文字通り“入り交じった感情”の時にまといたくなる香りです。
逆を言えば、夏向き・デート向きといった定型文的なシチュエーションにはハマらない香りだと思います。
年齢も性別も問いません。
おそらく、「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」のコンセプトに共感する方でしたら全ての人にお似合いになるんじゃないかな、と思います。
ただ若干メンズ寄りのアーティスティックな香りなので、女性がまとえばハンサムで芸術家然とした印象となるでしょう。
「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」をまとう人物像としては、感性と創造性にあふれた刺激的な人、だけど根っこに繊細な部分を持っている、パステルカラーよりモノトーン、集団より個人が好き、リベラリスト、といった感じです。
[4]香りで自分の内面を表現するというスタイル
出典 instagram.com/p/CMFbzmRAnHP/
『BYREDO(バイレード)』の香水はどれも独創的で奥が深いものばかり。
今回の「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」はただのフレグランスとしてだけではなく、自分の内面を表現するスタイルとしてつけこなせれば素敵だな、と思いました。
本当にタイムリーな「MIXED EMOTIONS(ミックスト・エモーションズ)」の香り、ぜひぜひ試してみてくださいね。