香りマジックは本の世界にも!?~“香り”を感じる物語5選~
誰かに自分の好きな香りを伝えたいとき、あなたはどんな言葉で表しますか?今回は、本の中にある香りを探していきたいと思います。例えば、物語に出てくる料理を表現するとき。おいしそうな香りの表現があれば、読者の心を鷲掴みにしてくれますよね。そんな香りの表現を探す本の旅に出てみませんか♡
2019年11月18日更新
記事の目次
[1]物語における香りの役割
日本で最初の物語は「竹取物語」といわれています。ずっと昔から、物語は人々の生活に彩を持たせ、楽しみを作ってくれる大切な存在だったのかもしれません。
娯楽の少ない時代に、想像力を働かせて、ドキドキしたり、ワクワクしたりする疑似体験ができる物語は、いつしか漫画になり、ドラマになり、映画になり…私たちの生活の一部になりました。
物語には、登場人物の見た目や性格、舞台となる土地の風景などが細かく描写されています。
そんな描写のなかで、今日は“香り”に注目していきたいと思います。
情景を豊かに想像させてくれる
物語に出てくる香りは、舞台となっている土地の景色をよりリアルに感じられるように手助けしてくれます。
例えば、「潮の香りがする街で…」という表現があれば、とても海に近い街だということがわかりますよね。あなたがもしそのような街に行ったことがあれば、その街を思い浮かべるかもしれません。
香りの描写がなくただ単に「海の近くの街」と書かれているだけだと、どれぐらい海に近いのか読者によって想像する景色がまちまちになります。
香りの描写があるだけで、作者が思い描く世界により近づくことができます。
ワクワクやトキメキを与えてくれる
料理の香り、花の香り、異国の街の香りなど、物語には様々な香りが登場します。
嗅覚的描写のある作品は、読んでいるだけで、想像力が膨らみ、まるで物語の世界に入ってしまったかのような感覚にさせてくれますよね。
特に物語の中にでてくる料理はなんだか輝いて見えたり…。実際に食べたくて再現レシピで作る楽しみもできますよね。
豊かな香りの描写が私たちをワクワクする世界に連れて行ってくれます。
登場人物の心情を表している
香りの描写は、登場人物の心情や物語の緩急を表現するときに登場します。
例えば、楽しいシーンのときは爽やかな香りの描写があり、暗いシーンには不快なニオイの描写があったり。
隠喩として登場する香りの描き方は、香水を作るときや、好きな香りを説明するときにも使えるので覚えておくと良いかも。
自分好みの香りをより具体的に表現できれば、運命の香りに出会うことも夢ではありません♡
[2]おすすめ小説
童心に帰る「キツネ山の夏休み」/富安陽子作
10歳の弥(ひさし)は、夏休みにおばあちゃんが住んでいる山間の村で過ごすことに。キツネや神様が住む山で過ごす数日間を、夏の輝きたっぷりに描いたファンタジーです。
1995年に小学生高学年の課題図書になっていたので、当時読まれた方もいらっしゃるかもしれません。小学生向きですが、大人が読んでも十分楽しめる情景豊かな作品です。
読んでいると、山に住む生き物たちの命の輝き、木々や小川の織りなす自然の香りが描かれ、まるで自分もその世界にいるかのうような錯覚を覚えます。
あなただけの夏の思い出を思い浮かべながら読んでみてください。
いわずと知れた名作「星の王子様」/サン=テグジュペリ作
サハラ砂漠に不時着したパイロットの主人公と、そこで出会った星の王子様との数日間の物語。星の王子様は地球から遠く離れた小さな星からやってきました。
自分の星を離れたのは、大事に育てていた薔薇の花のわがままに耐えきれなくなったから。たくさんの星に立ち寄りながら、地球にやってきました。
この作品には、人生の教訓がたくさん描かれていますが、素敵な香りの描写も散りばめられています。
特に大事にしていた薔薇の描写が豊かで、王子様がとても大事に、愛おしく思っていたことが伝わってきます。
自然派にはあこがれの生活「西の魔女が死んだ」/梨木香歩作
中学生で不登校になったまいちゃんが、田舎暮らしで自称魔女のおばあちゃんの家で過ごす日々が丁寧に描かれています。
おばあちゃんは、自分が魔女だといっていて、まいちゃんはそんなおばあちゃんと同じ魔女になるべく、魔女修行をはじめます。
おばあちゃんは、山の中で自給自足に近い生活をしていて、庭では野菜やハーブを育てています。毎日を丁寧に過ごすことの大切さ、命の大切さ、大事なことをたくさん学び、まいちゃんは不登校を乗り越えます。
この作品では、登場する料理やお茶、ハーブの香りがとても細やかに描写されています。ラベンダー畑で干したシーツに包まれた時の幸福感も手に取るように伝わってきます。
私はこの作品は何度も読み返し、映画も何度も見ていますが、そのたびにシーツにラベンダー精油を1滴垂らして、物語の世界に浸っています♡
香りの描写があるだけで、物語の世界をリアルに体験できる楽しさをこの作品に教わりました。
美味しいごはんに舌鼓「かもめ食堂」/群ようこ作
宝くじをあててフィンランドのヘルシンキで食堂を開いているサチエさんの物語。
みんながふらっと立ち寄って、家にいるときと同じようにリラックスしてほしいというコンセプトのこぢんまりした食堂。
様々な人と出会い、お店を繁盛させていく様子はコミカルで、時々クスッと笑えたり、サチエさんの過去にはほろりと泣かされたり。
軽快にすすむ物語は、人生に悩んでいる人におすすめ。
作品に出てくる日本料理やお菓子、コーヒーがどれも香り豊かで、読んでいるだけでお腹が空いてきます。食べることにとことんこだわりたい方にはまねしたいシーンがたくさんあると思います。
私は特にシナモンロールをつくるシーンがお気に入りです。お菓子が焼きあがったときに部屋いっぱいに甘い香りが広がる様子を思い浮かべながら読んでしまいます。
原作を忠実に再現している映画もとてもおすすめです。
国語の授業でお馴染み「トロッコ」/芥川龍之介作
学校の教科書で読んでいる人も多いかもしれません。私は国語がとても好きだったので、当時から好きな作品なのですが、嫌々読んだという方もいらっしゃるかもしれませんね。
でもこの作品でも情景が丁寧に描写されているので、ぜひ読み返してほしいと思います。
主人公・良平(りょうへい)の住む神奈川県の小田原から静岡県の熱海まで鉄道の敷設工事が始まり、工事に携わる人々や物品の移動のためにトロッコが敷かれました。
八歳の良平にはその様子が面白く、毎日学校帰りに工事の様子を見に行きました。そんなある日、トロッコに乗せてやると言われ、工事のお兄さんたちと熱海に向かう…という物語。
ミカン畑をトロッコで駆け抜けるシーンは疾走感とワクワク感が一気に盛り上がり、主人公の爽快な心情が丁寧に投影されています。
オレンジやネロリの香りを思い浮かべながら読んでみてください。きっと教科書で“読まされた”時とは、全く違う印象を持つことができると思います。
おまけ!漫画で読む源氏物語「あさきゆめみし」/大和和紀作
平安時代の貴族、紫式部原作の源氏物語を、漫画で描いた作品。平安時代の雰囲気を、今の京都と重ねながら読むことができます。
平安時代から利用されているお香の香りがしてくるような気がします。
[3]読書×香り
紹介した物語以外にも、絵本や漫画も含め、香りが表現されている作品はまだまだたくさんあるはずです。
自分のお気に入りの描写を探して、香りを表現するときのストックにしてみるのも面白いかもしれません。
また、本を読みながらコーヒーを飲んだり、アロマやお香を焚いたり、同じ料理を作ってみたりと、読書から得られる香りの楽しみ方を探してみるのもおすすめ。
家にいる時間が長くなるこれからの季節に、自分だけの香りの楽しみ方を見つけてみて♡